【 哀惜 】地味めな主人公マシュー・ヴェン新シリーズ、今後化けるかな?!

哀惜 ハヤカワ・ミステリ文庫 2023/3/23アン・クリーヴス:著,高山真由美:翻訳

「哀惜」アン・クリーヴス:著 早川書房

ストーリー

イギリスの南西部デヴォン州、海辺でホームレス サイモンの死体が見つかる。

故郷に舞い戻ったばかりのバーンスタブル署マシュー・ヴェン警部

部下のジェンロスと共に奇妙な殺人事件を解決するのに奔走する。

サイモンには秘密の過去や行動があり、パートナーのジョナサンが運営する

ウッドヤードセンターが大きく関わっていることから悩むマシュー

母親との確執や、過去の自分の精算、、、事件はマシューやその周りに人々を巻き込んでいく。

マシュー・ヴェン警部シリーズの第1作目。




プラス情報

ー アン・クリーヴス:著作  ー
哀惜  アガサ賞最優秀長篇賞を受賞

ー シェットランドシリーズ ー
大鴉の啼く冬 シェトランド四重奏 CWA最優秀長編賞受賞作
白夜に惑う夏 シェトランド四重奏
野兎を悼む春  シェトランド四重奏
春雷の光る秋 シェトランド四重奏
水の葬送 ペレス警部シリーズ
空の幻像 ペレス警部シリーズ
地の告発 ペレス警部シリーズ
炎の爪痕 ペレス警部シリーズ
(出版年月が古い順)

水の葬送、創元推理文庫2015/7/19アン・クリーヴス:著,玉木 亨:翻訳

「水の葬送」は新たなペレス警部シリーズのはじまり

2020年2月3日

「青雷の光る秋 」はシェットランドの情景が浮かぶ警察ミステリー

2019年11月8日
地の告発:創元推理文庫日本語2020/11/30アン・クリーヴス:著,玉木亨翻訳

【 地の告発】ペレスとウィローの仲が事件とリンクして深まる

2021年3月12日
 

読むネコポイント

イギリスのアン・クリーヴスさんの新たなシリーズの始まりです。

今回はものすごく地味めな場所、英国の南西部の町ノース・デヴォンで殺人事件が起きます。

海に近く大きな川が流れるこの辺りは、夏は観光地で冬はもっぱら寂しい地区。

イフラクームエクセター、など全然馴染みのない場所が舞台です。

荒涼とした寒い時期にぴったりな、主人公マシュー・ヴェン警部が事件を解き明かしていきます。

このマシュー、淡々としながらも、実にいろいろ背負っています。

シリーズの1作目とあって、マシューの背景も謎めいており、興味津々で読み始めました。



ペレス警部のシェットランドシリーズも陰々鬱々としており

むしろそれが癖になるような面白さでありましたが、マシュー・ヴェンも決して明るいキャラではありません。

他と違うことに敏感でありつつも肯定するしかない大きな葛藤を背負っており、

日本人の気質に似ているのではないか思いました。

マシューのパートナー(夫)のジョナサンは、それに対して単純で陽気な性格、

事件に巻き込まれつつもマシューを支えようとします。

そう、これはゲイのパートナーと婚姻関係を結ぶマシューの

事件を通して自分の存在意義と真摯に向き合うお話なのです。




マシュー・ヴェンはデヴォン州に生まれ、大学までは優秀な一人息子として

特殊なキリスト教団体に属する両親のもとで、牧師になるべく育ちます。

青年になったマシューは、宗教と家族から離れ、大学も退学します。

そして自身がLGBT、ゲイであることを受け入れ生きていくことに。

家族(特に母親)との断絶や、新しいジョナサンとの出会い、

繊細ゆえ機微のわかる性質を、犯罪捜査で発揮し、新しい生活を送るため故郷に戻ります。

そこで起きたホームレスの男性の不審死。

精神的に不安定なアルコール依存症のサイモン・アンドルー・ウォールデンはなぜ海岸で殺されたのか。

調べるうちに、キャロライン、ギャビー、女性二人との同居、有名店のシェフであった過去などが明らかに。

ダウン症の女性の誘拐事件、サイモン殺害が立て続けに起こるが

全てはウッドヤードセンター(障害者ケアや芸術カルチャースクールが開かれる交流所)に繋がり、

そこはマシューの最愛の人、ジョナサン・チャーチが建立に関わり責任者を務める場所でした。

マシュー警部は、部下の叩き上げのジェンや、今時の若者ロスと共に事件解明に進んでいきます。

狭い環境下での人物の表現が巧みな、クリーヴスさんならではの、

登場人物一人一人の気持ちの移り変わりが「うまいな〜」と思いました。

舞台も主人公もとにかく地味です 笑

でも伸び代がありそうですよ。

だって生活してると地味な普通っぽい人の方が、すごいこと考えていたりするでしょ 笑

マシューは冷静で感情をあまり表に出さない、主人公ぽくないタイプですが、周りの快活なジェンジョナサン

まだまだ雑で荒いロスとなんかと絡むと、グッと魅力が秀でてきます。

内なる炎が燃えているタイプです。

今後3作目まではイギリスで刊行が予定されているそうなので、どんどんと面白くなっていくのでは、と期待大なシリーズです!