「影のない四十日間」オリヴィエ・トリュック:著 東京創元社
ストーリー
トナカイ所有者のサーミ人(北欧の先住民族)の殺人事件が起こる。
トナカイ警察のクレメット・ナンゴとニーナ・ナンセンは、トナカイ所有者同士の諍いの線で捜査を進めるが。
希少価値の高いサーミの太鼓の盗難事件との関連、
怪しいフランス人の行動、サーミ文化、歴史、政治が入れ混じり、捜査は難航する。
仏人の描いたサーミの世界とミステリー。
プラス情報
ミステリ批評家賞、813協会賞など23賞受賞
CWA賞インターナショナルダガー最終候補作
2021 影のない四十日間 上下 本書
2023 白夜に沈む死 上下
読むネコポイント
新刊「白夜に沈む死」を読もうとしたところ、シリーズ物だと分かり
急遽先にこちらの「影のない四十日間」を読むことにしました。
優良ミステリーであることは間違いありませんが、
なんと言っても「サーミ」という言葉に惹かれたのが手に取ったきっかけです。
サーミ、で検索すると北欧3国(ノルウェー・フィンランド・スウェーデン)と
ロシアに跨る広大な北極圏で暮らす人たち、文化であることが分かります。
ラップ・ランドは国境を越え、トナカイを放牧して暮らす人たちと聞くとちょっと幻想的であり牧歌な雰囲気に感じます。
「アナと雪の女王」はラップランドの話です。
しかし、実際は原住民でありながら、侵略され植民地化され、迫害も受けて来た歴史を持ちます。
北欧の人達もサーミのことはあまり最近までよく理解しておらず
最近になって本や映画、研究が表立って出てきました。
トナカイ警察のクレメットは父サーミ人と母ノルウェー人のミックスです。
トナカイ所有者はサーミの中のヒエラルキーでは特権階級ですが、
クレメットの祖父は激動する時代の流れの中でトナカイ放牧を諦め、農家や季節労働に従事する道を選びます。
7歳時にノルウェーの寄宿舎に強制的に入れられ、ノルウェー文化を叩き込まれるという辛い経験をします。
サーミ人からはトナカイ所有を辞めて北欧に迎合した半端者、北欧人からはサーミ人として扱われる、
マイノリティーの中のマイノリティー。
複雑なメンタリティーを背負いつつ、現在では警察で唯一のサーミ人として一匹狼的な立場です。
相方のニーナはクレメットと正反対、典型的な北欧人の美人で若く無鉄砲。
単純に物事を捉え率直に行動に移すので、ジメジメうだうだしてるクレメットとはいいコンビとです w
そんなコンビが一見単純な喧嘩だと思われた殺人事件を追ううちに、
其々の思いや生き様をトナカイ警察で浄化しながら、真相へと迫っていきます。
そして、本作の真の主人公は
アスラク!!
原始的な方法でトナカイ放牧を行い、シャーマンのような生き様の彼は
まさに青い炎です。
一見ストイックでクールですが、その下には轟々と燃え盛る熱い魂が。
サーミ人は皆アスラクを恐れながらも尊敬しているのが、めちゃくちゃ格好いいです。
この機会に是非サーミ文化を感じてみませんか。
現在フランスでは4冊目まで刊行しており、翻訳が待たれます。