「白夜に沈む死」オリヴィエ・トリュック:著 東京創元社
ストーリー
ラップランド、トナカイの放牧地区でありながら、町の発展に伴い
トナカイ所有者と町住人の間の溝は広くなるばかりで、トラブルが頻発に。
トナカイ所有者の若きエリック・ステッゴ(サーミ人:北欧の先住民族)の死亡事件をきっかけに
ハンメルフェスト市長、石油開発会社CEO二人の殺人事件が連続して起きる。
トナカイ警察のクレメット・ナンゴとニーナ・ナンセンが事件解明に乗り出す中、
石油会社ダイバー、サーミ人のニルス・ソルミや、元ダイバーでニーナの父トッド・ナンセン、
過去の石油採掘に関わる秘密裏の研究、サーミの歴史、町の利害が錯綜する。
仏人の描いたサーミの世界とミステリー、シリーズ第2弾。
プラス情報
ミステリ批評家賞、813協会賞など23賞受賞
CWA賞インターナショナルダガー最終候補作
2021 影のない四十日間 上下
2023 白夜に沈む死 上下 本書
読むネコポイント
まだまだ情報不足の「サーミ文化」に触れたくて、読み始めたこのシリーズの第2弾「白夜に沈む死」です。
前作「影のない四十日間」が太陽が出ない極夜の冬季の話で
「白夜に沈む死」は白夜以前の春の芽吹きの季節が舞台です。
トナカイ牧草地ハンメルフェストへ移動する中で事件が起きます。
トナカイ所有者エリックは大学出のインテリであり美しい妻アナリーと結婚したばかり、
サーミ人の新しい生き方やトナカイ放牧を試みようと未来を模索する新世代のリーダーでした。
トナカイ移動中「何か」をきっかけに暴走したトナカイ群の事故に巻き込まれ、命を落とします。
一方、トナカイ警察のクレメットとニーナは
ハンメルフェストの町に入り込むトナカイを取り締まる任務で大忙し。
市長は元々放牧サーミ人が使用していたハンメルフェストから、トナカイとトナカイ所有者を追い出したくて仕方がなく
都市系サーミ人、石油開発で移住する流れ者やダイバー、虐げられる先住民など、町は発展中でごちゃついています。
その象徴とも言える二人の人物が、とってもいい味出してます w
エリックの幼馴染、地域のスター、セレブダイバーのニルス、彼はサーミ人です。
ニルスはすんごくとんがっていて、人気者ゆえにワガママで感情的です。
世界はニルスのために回っているかのよう、他者に攻撃的で、クレメットとも犬猿の仲。
ニーナはニルスにムカつきながらもどこか惹かれます。前作のアスラクに魅入られたように。
都市系サーミ人の両親に育てられ、トナカイ放牧を過去の遺物とみなし、否定するニルスですが
彼の祖父にまつわる忌まわしい過去は、現在の彼とリンクしていた、なんとも皮肉な結果に。
ここら辺は差別されたサーミの歴史とともに、本書を実際読むと感慨深いですよ。
もう一人は、地元不動産仲介業者のマルッコ・ティッカネン。
こちらはフィンランドからノルウェー最北の街に移住した訳ありの人物。
粘着質で、運動不足でブヨブヨの体、他者から下に見られることでスキをつき、油断させて弱みを握るという、、 w
正真正銘のクズ野郎です。
が、なんか読んでいると笑えてくるし、結局ニルスもティッカネンに操られていたりで
意外に活躍?!しています。
なんとなくコロチキのナダルのような、腹立つけどいき過ぎてて笑ってしまう感じ w です。
最初、聞き慣れない「サーミ」という言葉に興味を惹かれ手に取ったこのシリーズ。
サーミ、で検索すると北欧3国(ノルウェー・フィンランド・スウェーデン)とロシアに跨る
広大な北極圏で暮らす人たち、文化であることが分かります。
国境を越えたラップ・ランドで、トナカイ放牧して暮らす人たちと聞くと、幻想的で牧歌的なイメージ。
「アナと雪の女王」はラップランドの話です。
しかし、そこは先住民の侵略や迫害を受けて来た歴史を持ちます。
北欧人もサーミ文化はあまりよく理解しておらず、最近になりメディアで表立ってきました。
行方不明のニーナの父親の現在は如何に?
ニーナと母親の確執などから、彼女のバックグラウンドが順風満帆だったわけでないことが徐々にわかってきます。
クレメットも面倒臭い部分を持ち合わせていますが、ニーナもなかなかなのかも w
だからいいコンビなのかもしれません。
殺人事件、ダイバーの過去、新しいサーミ世代、町の発展などなど終着点があるのかなと読んでいましたが、
最終的には意外にもスッキリとまとまって事件も解明されました。読後感も悪くないです。
既にシリーズは4作まで刊行済みということで、翻訳が待ち遠しい限りです。
前作のアスラクや、ニルスにもまた登場して欲しいなぁ、なんて期待しています。