【 レイン・ドッグズ 】1980年代北アイルランド混迷時代の警察ミステリー

レイン・ドッグズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)2021/12/16エイドリアン・マッキンティ著,武藤陽生翻訳

「レイン・ドッグズ」エイドリアン マッキンティ:著 早川書房

ストーリー

北アイルランドのベルファスト郊外の古城で女性の転落死体が発見された。

当初は自殺と考えられたが、城全体が密室状態の中で起こった殺人事件の疑いが出てくる。

1980年代北アイルランド紛争真っ只中、IRA、フィンランド視察団、女性ジャーナリスト、児童虐待などが絡まり合って同時進行していく。

更に続いた警察高官の車両爆弾事件、全ては繋がっているのか。

キャリックファーガス署の刑事ショーン・ダフィ仲間は事件を解決へと導けるか。

ショーン・ダフィシリーズ第五弾。




プラス情報

<エイドリアン・マッキンティ>
イギリス北アイルランドのキャリックファーガス生まれ。オックスフォード大学で哲学を学ぶ。2000年頃から執筆活動。
『Dead I Well May B』(2003) 英国推理作家協会(CWA)賞スティール・ダガー賞にノミネート
『レイン・ドッグズ』(2016) アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀ペイパーバック賞

<ショーン・ダフィシリーズ>
コールド・コールド・グラウンド 2018
サイレンズ・イン・ザ・ストリート 2018
アイル・ビー・ゴーン 2019
ガン・ストリート・ガール 2020
レイン・ドッグズ 2021



読むネコポイント

ショーン・ダフィシリーズの5冊目だということですが、実は初めて読みました。

手にとったきっかけは装丁のビジュアルが格好いいという、至極単純なものでしたが、読んでみると

「ロックではないか!!」

とちょっと予想外で感動してしまいました。と言いますのも

アイルランドの各団体、代表的で有名なのはIRA(アイルランド共和軍暫定派)ですが、それ以外にも前衛カトリック、保守プロテスタント、、、と沢山あり

その注釈が作品冒頭に、登場人物紹介よりページを割いて説明してありまして、

読む前に頭の中がゴチャゴチャしてくるは、きっと悲惨で暗い内容に決まっているしなと

期待値がひどく下がっていたのです。



話のスタートは、ショーンが彼女エリザベスに捨てられる、一方的に、という少しコミカルな始まりで

ショーンの性格がよく分かります。女性に優しいです。そして女々しい w

と同時にモハメド・アリの北アイルランド訪問の警護を行う真面目で熱い面も垣間見え、

いい奴ではないか、ちょっと面倒臭そうだけど w と思えてきます。

作者エイドリアン・マッキンティは音楽にこだわりがあるのでしょう、80年代のロックミュージシャンやグループ、曲名が随所で出てきます。

きょまタローの青春時代と結構リンクしているのです。

イギリスやアイルランド音楽に夢中でした。そんなこともあり,このシリーズに何か予感めいたものを感じたのです。



ダフィと相棒クラビーとローソンはキャリック城で起きた女性の変死を捜査していくうち

矛盾点やフィンランド上場企業の視察メンバーのおかしな行動、それをガードする元同僚アントニー・マクロイ、

上司の爆弾事件の犯行声明がIRAから出ない事、夢のような環境の少年犯罪更生施設、

あるけれど無いとされる高級売春宿、これらがどうもバラバラではなく一つの何かを指していると気がつくんですが

それはやっぱりそう簡単には結びついていかないんですね。

で、一番わからないのが、人の入る隙が全くない閉場後の城で、誰が殺人を犯したのか、その方法。

このトリックは正直あんまり、、です。あんまり期待しなくていいと思います。

トリックよりも、人の魅力ですね。このシリーズは(クラビー、ローソンはいい味出してます)。

北アイルランドの宗教と政治をめぐる紛争のリアリティをベースに圧倒的なノワールとロック感

そこに密室殺人が上手く混ざって、ショーンの人間臭さがユーモアとともにあふれるている作品。

次回作「Police at the Station and They Don’t Look Friendly」がとても楽しみです。

レイン・ドッグズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)2021/12/16エイドリアン・マッキンティ著,武藤陽生翻訳

「レイン・ドッグズ」
エイドリアン・マッキンティ:著